起業家インタビュー
第10回
けいの家(㈱開拓使)
オーナー 北澤 秀彦(きたざわ ひでひこ)
十勝と八王子が出会う居酒屋
プロフィール
●長野県出身。
●高校時代はボート部に所属し、諏訪湖でボートを漕ぐ毎日。
●学生時代から大手居酒屋チェーン店でアルバイトをはじめ、そのまま就職。立川や八王子の店舗で店長を努め、最終的には30店舗以上を管轄するエリアマネージャーとなる。
●退職を機会にオーナーとして独立。大手時代の仲間たちとともに「けいの家」を開店。同代表となる。
会社情報
所在地:東京都八王子市明神町3-9-1
電 話:042-649-1724

 

社名 けいの家(㈱開拓使)
業種 居酒屋
社員 15名
創立 平成26年1月

 

Q はじめに今の営業内容を教えてください。

A 北海道十勝広尾の食材と八王子産の野菜や江戸東京野菜を中心とした居酒屋です。
 農夫と海女の逢瀬を店舗コンセプトとして、八王子の採れたて野菜や生産者さんを「農夫」、十勝港をはじめとする様々な海産物や漁業関係者の方を「海女」と象徴的な言葉で表現させて頂いています。農夫と海女が融合したときに魅力あるお料理や新しい価値をご提供出来たらという思いも込めながら、季節ごとの素材を活かしたメニュー作りをしています。
 十勝広尾町には妻の実家があるのですが、十勝港という道内有数の港があり、実は本シシャモの漁獲量は日本一で、酪農も盛んな町です。実際妻の実家も牛を300頭も抱える農場を営んでいます。食材は非常に良いものが揃っているのにあまり知られていない。そんな場所を自分の店でPRしたいという思いがあり、メニューブックに大々的にうたいながらお客様に提供しています。

 

 

Q 起業したきっかけを教えてください。

A 前職は大手居酒屋チェーンで多摩地域の様々な業態の店舗を担当していました。実は起業する気はあまりなかったのですが、もし独立するのなら以前から八王子でやってみたいと考えていました。なぜなら八王子は多くの居酒屋がありますが、個店なのに魅力のあるお店が大変多く、大手の飲食チェーンはあまり根付きづらい地域性であると感じていたからです。参入してもしばらくすると撤退や業態の転換する店舗もいくつか見かけました。それよりも独自色を出した店舗の方が人気があります。
 また、自分が独立するときに有難いことに多くの仲間がついてきてくれたので、そのためにいくつかの条件さえ見合った物件であればすぐにでも創業したいと考えていました。開店当初は苦労もしましたが結果的には今の場所で創業できてとてもよかったと思います。

 

Q 起業するときに注意した点は?

A 価格競争や値引き合戦に巻き込まれないために駅前に店舗を構えるのは避けようと考えていました。これはかつて大手居酒屋で働いていた経験から感じていたことなのですが、駅前は確かに人通りが多い。しかしその分非常に競争が激しく、よほどセンセーショナルな価格力や商品力、内外装の店舗でない限りは他の店に埋もれてしまいます。また、店の規模の割に家賃も高く、その分価格やサービスの部分にしわ寄せが行きがちです。創業時、そのような戦いの中に参入するお店の体力や資金力、自信も全くなかったので、それよりは美味しいものを良いサービスのもと出来るだけお安く提供するために、駅から多少離れた場所でも「けいの家」を目指してお越しくださるお客様を増やす店作りをしようと考えました。

 

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店内の様子。座敷で最大40名まで宴会受付!

Q それでは起業してからどんなことに苦労しましたか。

A まず、開店する前に苦労した点は、自分にとっても想定外だったのですが、いざ起業となると自分自身にあまりにも知識がなかったことです。以前の職場ではエリアマネージャーとして多くの店を統括していたのでそれなりに出来るだろうと思ってはいたのですが、実際に起業するときには物件取得の仕方や仕入業者さんの選び方、資金調達の方法や国の制度など全くわかりませんでした。今までどれほど勉強不足で井の中の蛙であったかを思い知らされました。
今後起業を目指す方には是非広範な知識を持ってから創業に臨んでいただければと思います。
 他に苦労した点は開店直後の集客です。平成26年1月末に開店しましたが、お客様にお越し頂けたのはそれこそ開店当初のイベント期間中だけで、一週間もすると客足もパッタリ途絶えてしまいました。あげくに2月には週末に二度の大雪に見舞われて一日に二人のお客様にしか来てもらえませんでした。店にいても何もすることがなく、仕方ないので道行く人に粕汁や甘酒を配ったり、店員総出で店の周辺のみならず町内すべてを雪かきしたりしていました。その頃にした苦労からは本当に多くを学ばせてもらいました。

 

Q “八王子”で起業して良かったと思える点はありますか

A 苦労した点で開店直後に全くお客様が来なかったと言いましたが、町内中の雪かきをしてから少しずつお客様が増えてきました。実は町会の人たちやご近所の方々は自分たちが雪かきをしていたのを見ていてくれていたのですね。少しずつ少しずつ町内の人が来てくれるようになり、その時にほんの少し「町に受け入れて頂けたのかな」と感じました。今ではおかげさまでたくさんの方に常連客になって頂き、ご愛顧を頂けています。
 創業の地を八王子にして良かった点を挙げるならば、一人で戦っているわけではない、ということでしょうか。例えば農業関係者の方であったり、不動産業の方であったり、一度知り合うと色々な方をご紹介して頂いたりつながりを広げていけます。また、昨年参加させてもらった「本気の創業塾」では志を同じくする仲間や先輩と出会うことができ、互いに励まし合いながら勇気を持って事業を進めることができました。

 

Q これからの事業の展望についてお聞かせください。

A 今当店では「採り直」というテーマを掲げています。
 これは産地直送よりさらに早く、極端に言えば八王子の畑から採れた直後の泥の付いた野菜をお店にそのまま運んでもらい、数時間後たくさんの種類の野菜がサラダになってテーブルに並んでいるというイメージです。採り直は野菜の鮮度をある意味「時間軸」で表した言葉ですが、来年はさらに鮮度を「空間軸」で捉えた「そこ採れ」野菜を提供するお店を2店舗目として開店予定です。具体的な場所はまだ言えませんが、“産地からすぐ届く”から、ついさっきそこの畑で採れた野菜を目の前で料理する“すぐそこが産地”を大きなテーマに据えるつもりです。
 その後は一緒に働く仲間たちと相談しながらじっくり多店舗化を進めていきたいと考えていますが、八王子という町の中ではまだまだ駆け出しなので、「八王子を盛り上げたい」という気持ちよりも、まずは地域の方やお越し頂いたお客様に「ご迷惑をお掛けしない」店作りをしていきたいですね。
 駅から少し離れた「けいの家」にわざわざお越し下さるお客様のために、まずは清潔感のある居心地のよい環境を整え、良いお料理、良いサービスをご提供し、人と人とを結びつけながらお店を営業していきたいと考えています。

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店長の北澤さん

 

Q これから起業を考えている方たちにメッセージをお願いします。

A 八王子市で実施している創業者向けの手厚いサポートは是非活用してほしいです。特に飲食業では創業する際にどこから何をすればよいのかわからないことが多々あります。そのときに頼りになるのが起業家応援プロジェクト八王子で実施しているサポートです。
 色々な情報を仕入れることができる支援機関をうまく活用して創業に役立ててほしいですね。

(H27.11.30取材)

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